ベアーズ合宿レポート
THE・生還
いよいよ、ベアーズ合宿の日がやってきた。
いつもは、のんびり温泉気分のベアーズ合宿。
だが、今年はなぜか合宿の前日、緊張で眠りが浅かった。
それも、そのはず、今年は、ベアーズの獄長こと市っちゃんが、綿密なシゴキ合宿を計画していたのだ。
メニューの苛烈さは、すでに3月に湯河原で行われた、市塾合宿で体験済み。
しかも、今回は、3days。
束村さんと、思わず、雨乞いの踊りを踊る。
きっと、この踊りが雨をもたらすであろう・・・
【初日】
肉体状態:良 好
精神状態:やや緊張
天 候:晴 れ
電車組は集合時間前に着いたが、車組は渋滞で遅れ、のっけから、獄長イチの怒りが爆発!
仏のようなやさしい顔から、大魔人のように変貌した顔に、子羊状態で料理にされるのを待つばかりのシゲルは、震え上がった。
後続の合流を待つ為、バイクで西湖に登り、1周約10キロを、束村さんと回遊。
ほどなく獄長イチ・國分さんが合流。
我々の歯ごたえのなさに苛立ったか、富士山中をバイクライド中の剛脚パンタ、関取アタカを呼び出し、総勢6人で、周回の追い抜き競技がスタート。
一人、また一人と脱落し、わずか2、3周で獄長とシゲル二人になってしまう。
通常、レースの為に練習をするものだが、地獄合宿を知るシゲルは、この合宿で生き残る事だけを考えてきた。
植村直己も言っている。生きて帰る。それが、冒険というものだ。
坂で何度もアタックをかけられるも、短い坂なので、かろうじて喰らいつくことができた。
今、思えばここでちぎれておけばよかったのだ。
この時点で、スプリントしてしまい、すでに足は乳酸でパンパン。
やがて、渋滞組が合流、メシ後、御坂峠へとA,B,C各チームは、時間差で、ヒルクライムを開始した。
東大Doo-upの精鋭、一平、中川、ビル、そして獄長に率いられ、シゲルは必至にケツに喰らいつく。
うげーっ。峠下まできたぁ〜と思ったのもつかの間、獄長イチの
「はあい、これから上までTTやりまあす」
という、コースとは裏腹のやさしい口調が響き渡り、約7キロ弱のタイムトライアルがスタート。
心拍は一気に180を超える。
頂上では、鬼のような形相で坂を登ってくる僕らに、天下茶屋にいた観光客は、あんぐりと口をあけた。
休憩もそこそこに、遅れた矢口監督、佐野GMの救出部隊に抜擢され、坂を再び登ることに。
無事、全員TT終了後、Cチームは終了。
A,Bチームはお別れして、別コースへ。
Aチームは、峠を一宮まで一気に下り、第二のシゴキポイント、鳥坂峠ヒルクライムへと突入した。
この鳥坂峠、延々とつづら折りが続く、いやらしいコース。
しかも、アプローチが長い。
中川が山岳に入って、嬉々としてペースをあげ始める。
ダメだ、中川に引かせるな・・・。
一平、邪魔しにいけ・・・
心の願いもむなしく、ここまでがんばってきたシゲル、ついにチギれてしまう。
だが、佐野GMが丹精こめて作ってくれたバナナケーキの補給食がなければ、ここまで喰らいつけることは、なかっただろう。
ありがとう!佐野さん!
さて、せっかく登ったのに、また一気に下まで下らされる。
やけに長い下り。
いやな予感がする。
左手に、第三のシゴキポイント、精進湖ブルーラインが、現れた。
「まじかあ〜!!」
ここを登った後、ようやくその先20キロ先の西湖に帰れるのだ。
集団から再び、チギれたシゲルは、サイクリストの外人に道を案内されながら、単独でようやく、お宿富士桜に生還。
すでに19時30分になっていた。
TTL走行距離: 147キロ 実質、ペダルを漕いでいた時間:6時間
【二日目】
肉体状態:強度の全身疲労
精神状態:恐怖、不安、祈り
天 候:くもり
AM5:00。
「しげるさ〜ん、朝練の時間ですよ〜」
不気味なネコなで声が遠くで聞こえる。
い、市っちゃん・・・
いやいや、そんなはずはない。
俺には朝はないんだ・・・そうだ、朝練は自由参加なんだ・・・なのに・・・
うだうだと寝床を這い出すと、すでに誰もいない。
國分さんまでもが。
外は、寒い霧雨。
みんな、痛覚を取り除く手術でも、寝ている間にされてしまったのだろうか。
待っていてくれた、アタカと共に、ぶつぶつと文句を百もタレながら、のんびりと本栖湖ライドへ出発。
Aチームは、再び御坂峠に行っているらしい。
Bチームに降格したシゲルは、Bチーム先遣隊からも遅れ、しめしめとばかりにズルをして、回転100キープの軽いギアで快適にライド。
雨が本降りになり寒い。
本栖湖を周回するも、先行のBチームに一向に出くわさない。
どうやら、本栖湖に気づかず、地獄の行進を、そのまま県境まで続けて、いなくなってしまったようだ。
帰り道、のんびり精進湖をのぼっていると、ぐい〜んと腰を押される。
「しげるさ〜ん、こんなにゆっくり走ってちゃダメで〜す〜よ〜」
う゛っ。
その声は・・・
ズルをするとやはり、バチが当たる。
この後、シゲルとアタカは、イチ獄長ら、Aチームの回転練習に帯同することになり、結局、足を使いまくってしまうのだった。
朝練TTL走行距離: 52キロ 実質、ペダルを漕いでいた時間:2時間25分
朝食後、三ッ峠山系へのトレイルランが始まった。
針の山に登らされる心境。
浅間神社をスタートし、5キロ上の開運山まで直登する。
入り口に大きな滝があり、みんなは嬉しそうだったが、シゲルはすでに仮死状態に入っていた。
剛脚パンタは、水を得た魚のように、開運、開運とつぶやきながら、ワシワシと登っていく。
シゲルは予想通り、完全にちぎれ、待っていてくれたみんなと、三ッ峠山頂上で記念撮影。
猛烈な強風に、ウィンブレを忘れたシゲルは、仮死状態を決め込んでいたのに震え上がり、あわれ、体を温める為、再び思い切り走ることを余儀なくされてしまうのだった。
疲れた時でも、無理やり速く走るコツは、寒さにさらすことだ。
どうやら、肉体は乳酸できつくなることよりも、体を寒さから守ることを優先するらしい。
もう、一歩も走れないと思っていたのに、寒さで一時的に足が復活してしまった。
思えば、ウィンブレが必要な時にウィンブレはなく、使わない時におもりとして持っているという、ちぐはぐな行動が合宿を通してあり、過酷な合宿により、このあたりから、精神に錯乱をきたしていたと思われる。
トレイルランのスペシャリスト、オリエンテリアの円井さん達に、ダウンヒルの下り方を指導してもらう。
オリエンテリアの二人と市っちゃんは、そのまま、なんと、20キロ近くも走り、鍵掛峠付近まで走ったらしい。
Bチームの現役東大生と剛脚パンタは御坂山を制覇、どんどん降格するシゲルを含む、われらがCチームはうそ八丁峠、清八山を回り、天下茶屋へ下山後、アタカの太りぶりを撮影の為、温泉へ。
尚、うそ八丁峠では、アタカの
「のんびり合宿なんてウソ八丁〜!!!」
という、お約束の叫びが響き渡ったのは言うまでもない。
しかし、このアタカのくだらない叫びに何度救われたことか。
苦しい合宿の中でも、明るいアタカが、シゲルの活力になった。
夕方は、河口湖半でバイクフォームをビデオ撮影。
夜の解析では、それぞれの改良点が浮き彫りになる。
この分析は、大変に為になった。
パンタくん、ありがとーう!
夕食時、即身仏と化したはずのケースケが、生きて動き出すのを見て、ビックリ。
アタカには、昼間のギャグのお礼に、寝屁をおみまいする。
阿部ちゃんはピクリともしなかった。
【最終日】
肉体状態:顔-土偶、体-即身仏、オナラがやたら出る
精神状態:獄長の声が耳をついて離れない、夢遊病になる
天 候:雨のち晴れ
AM5:00。
「しげるさ〜ん、朝練の時間ですよ〜」
不気味なネコなで声が遠くで聞こえる。
はて、これは・・・
い、市っちゃん・・・
マテマテ、そんなはずはない。
昨晩は、市っちゃん、午前2時過ぎまで、矢口監督とおしゃべりを楽しんでいたはずだ。
起きられるはずがない・・・春のイチ合宿でも寝てた・・・うそだ・・・きっと悪い夢だ・・・。
そ、それに雨の予報だったはず・・・
おそるおそる目をあけると、汚ないケツを丸出しにして、CWXを引き上げているアタカが見えた。
ゲッ!アタカ、おまえもか・・・。
果たして、二日連続で、朝練を佐野GMが見送ってくれる。
「今日は雨の予報が出ているので、朝練をきつめにやりまあ〜す」
文句を百もタレつつも、地獄合宿も、もうこれで終りさと思うと、やる気がわいてくる。
そうだ、午後は大雨だ。
バイクには乗れない。
走り始めて、これから何をやるのか知らされないところが、地獄合宿の隠し味だ。
まずは、ゆっくりと西湖下まで、ジョグ。
そこから、西湖畔までは、強烈な激坂が待っている。
これまでの地獄経験から、自然と防御本能が働いて、毛穴が開くのがわかる。
体が報らせている・・・。
きっと、やつは、やるに違いない・・・。
「上まで、TTやりまあす」
きた〜っ!
朝の5時からタイムトライアルをしているチームは、学生でもそうないであろう。
有無を言わさず、遅い順にTTスタート。
剛脚パンタくんに抜かれ、ヒイヒイと坂を上がりきると、アタカがガードレールにしがみついて、何やら腰を振っている。
気でも狂ったかと思ったら、ゲロを吐いていた。
ゴールのトンネル目前で市っちゃんに追いつかれそうになり、スプリントに。
粘って同着したが、腰を振るアタカの気持ちがひどくよくわかった。
降りしきる雨のなか、ジョグで月夜見の折り返し地点へ。
「それでは、第二TTやりまあす」
事ここに至り、誰も返事をする者はなかった。
しとしとと氷雨が体を打つ。
しかし、第一TTで、ありえないスピードでゴールに先着し、生命エネルギーのすべてを絞りきってしまったケースケの目が、左右別の方向へ泳ぎだし、再び即身仏へと還っていくのを、シゲルは見逃さなかった。
第二TTスタート!
どういう、運のまわりか、再びゴールで、市っちゃんに追いつかれそうになり、スプリント。
この合宿、一度も手を抜けない。
いい練習になっているのだが、体が壊れそう。
結局、西湖を一周し、下りを高ピッチで回しきるドリルのあと、激坂を、下りスプリント。
最後はタイムトライアル状態になり、これまた市っちゃんに追いつかれかけ、やっとの思いで振り切る。
神様、もう許して〜。
走行距離 21キロ 合宿終了−。
「あれ、晴れてきましたね」
うれしそうな市っちゃんの声。
晴れてないよ、いや、雨よ、どこへ行ったのか。
雨乞いの効果が・・・
やはり、神はいなかった。
神様は、獄長イチのもくろみ通り、エアポケットのように富士五湖地方だけ、真夏の天候を用意した。
そこ意外は、全国的に春のメイストーム。
台風のような雨だというのに。
「富士スバルラインやりまあ〜す」
パンタとアタカの顔に、ありありと動揺が走った。
「いや、僕達、これから自走で東京帰らないと、夜になっちゃうし・・・」
「こっ、これは、逃げではないっ!」
二人を見送り、残留兵たちはうだる暑さの中、富士山スバルラインへと十字架のように思い体を背負って、行軍を始めた。

ほんとにこれが、合宿の最後なのか?
こころなしか、学生三人も元気がない。
嬉しそうなのは、市っちゃんと最終解脱を果たしたケースケの二人だけだ。
この時、3合目以降、雨、強風という表示を気にしてはいなかった。
2合目をすぎ、いきなりビルがアタック。
まじか〜っ。
一平、やつをなんとかしろ〜。
思った通り、ケースケとシゲルを引いていた市っちゃんのペースが上がる。
シゲルの心拍は160を突破、矢口監督と佐野GMがウィンブレの入った荷物を渡そうとするも、心拍は徐々にスプリント状態に入り、視界には市っちゃんのタイヤしか見えなかった。
とにかく、つく。
初日の追い抜き競技と同じく、それだけが体を動かしていた。
三合目付近にさしかかり、やおら風雨が強まる。
市っちゃんからチギれるも、ケースケと一平が追いついてきて、三人で交代で引く。
しかし、それも1度しかもたず、振り返ると賢明なる二人は戻ったのか、消えていた。
この時、引き返そうとはまったく思っていなかった。
市っちゃんの背中がまだ見えていたからだ。
4合目に入ると、嵐が待っていた。
冷たい雨でズブ濡れの体に、容赦なく寒風が吹きよせてくる。
黒い、おそろしい風が上空に渦を巻き、登坂だというのに、波のように風が襲ったかと思うと、時速は12キロから24キロに瞬時に増し、一気に持っていかれる 。
ありえない風だ。
4分先に下りに入ったビルと市っちゃんから
「下り気をつけてくださーい」
と声がかかる。
登頂し、ここにきてようやく、ウィンブレをもらえない事を悟った。
考える余地はなかった。
なぜなら、ものすごい風と震えで、バイクを押さえることもままならなくなっていたし、第一、体を止めているだけで、凍死しそうだったのだ。
結局、シゲルはちょっと下ったところの雪崩退避トンネルの中で、死にかけているところを、ハイカーに救助され、途中、市っちゃん、ビルも拾われ、瀕死の状態で富士桜に帰ってきたのだった。
風呂に運ばれ、阿部ちゃんが、
「ああ、シゲルさん、それ、低体温症っすね」
とサラリと言いながら、2本のシャワーで体を温めてくれる。
ようやく回復。
最後には、命がけの合宿になってしまったのだった。
しかし、本当に、1週間くらい合宿をしているような、濃密な3日間だった。
自衛隊も管理者養成学校も、今となっては大したことはない。
尚、この合宿で、即身仏になったケースケは、次の日39℃の高熱を出し、寝込んだ模様。
シゲルも、肉体の組成が劇的に変わった感じがして、未だきついままだ。
ともあれ、来月のベアーズ合宿に期待します(うそ)
走行距離35キロ
パンタ、アタカの二人は、東京まで150キロを自走で帰還。
嵐のスバルラインヒルクライムか東京まで自走か、どちらがきついかは究極の選択でしょう。
矢口監督に是非、次回、チャレンジしてもらいたい。

〈完・次回合宿へ続く〉
参考書籍
「凍る体」〜低体温症の恐怖 船木上総 著
|